■第47作『男はつらいよ 拝啓車寅次郎様』より
江ノ電「鎌倉高校前」駅のホーム。単線を鎌倉方面へと警笛を鳴らしながら走り去っていく電車を満男がホームに立って見送っている。その傍らには寅次郎もいる。
満男 きれいな人だな。あんな人に恋をしていたのか伯父さんは。
怪訝そうな顔して
寅 そんなことしてねえよ。ただぼんやりと眺めてただけだよ。
満男 キレイだと思ってかい?
寅 そ、そりゃぁそうだよ。
満男 それが恋ってもんじゃないのか。
寅 うるせぇーなぁー。それよりお前のほうはどうなんだよ。あの気の強そうなキレイなお嬢ちゃんとは。結婚まで上手くこぎつけそうか?
満男
それがね~、伯父さん。見事にふられたよ。ビシッとね。
寅 失恋はな、名誉の負傷じゃないんだから 偉そうに見せびらかすんじゃないんだよ。
満男 でも正直言ってホントはホッとしてんだ。くたびれるもんなぁ恋するって。
寅 満男!ちょっとここにきて座れ。
満男 何?
寅 くたびれたなんて事はな何十ペンも失恋した男の言う言葉なんだよ。お前まだ若いじゃないか。え~?燃えるような恋をしろ。大声出してのた打ち回るような恥ずかしくて死んじゃいたいような恋をするんだよ。
ホッとしたなんて情けないこというなバカヤロウ!寂しいよ俺は。
プォ~ン(電車の警笛)
電車がやって来る。
電車に気がつき立ち上がる寅次郎
満男も慌てて立ち上がる
寅 満男、頑張れよ。
満男 伯父さん、俺・・・反省しているよ。
寅 よし。
寅 今度会うときはもっと成長していろよ。
黙ってうなずく満男 電車に乗り込む寅次郎 出入り口に立ち満男を見る
寅 皆によろしくな。
黙ってうなずく満男
満男 伯父さんも元気でな。
発車の合図が響く
寅 ああ。
電車のドアが閉まる 笑顔で窓越しに手を振る寅次郎 警笛と共に走り出す電車 見送る満男 いつまでもいつまでも見送る満男