『お母さん、今ぼくは思っています。
ぼくに故郷なんかなくなってしまったんじゃないかと。
そして、残っている故郷があるとすれば、
それはお母さん、あなた自身です。
お母さんは何から何まで故郷そのものです。
今、こうして眼をとじていると、
あなたのあの声が、あの姿が浮かんでくるんです。』
今も聞こえる あのおふくろの声
ぼくに人生を教えてくれた
やさしいおふくろ
31歳になる長男が結婚することになって、明日家を出ていく。 神奈川県の藤沢に嫁になる人と一緒に住む。 今日は、たまたま他の子たちはみんないなかったので、わしと家内と長男とで小手指のお肉屋で食事をしたのだ。
一番最初の子だった長男が明日家を出るということで家内はとりわけ寂しそうにしていた。
思い起こせば、わしの母ちゃんも用もないのによく防衛医大の学生舎に電話をしてきていた。死んだ父ちゃんは自分では電話してこなんだが、母ちゃんを通じて『元気にしちょるか? 昨日お前の夢を見た。』とよく言っていた。 その時は何とも思わなんだが、わしは18歳で家を出て以来実家に戻ることは無かったわけで、両親はさぞ寂しかったろうと今思う。